デザインの先へ〜慶應メディアデザインラボへの訪問(コーポレート・プランニング・グループの”社会貢献事業” ブログ(Vol. 4))

2024.03.26

今回のブログでは、慶應義塾大学大学院のラボ訪問を通じ”Pax Japonica”の実現に向けて重要なエレメント(構成要素)の一つである「先端科学技術の社会実装」に係る取り組みを紹介いたします。

弊研究所は、激動の2022年を受け、世界史の大転換、すなわち「グノーシス主義的転回」の“プレリュード”とでも言うべきタイミングの到来で弊研究所が掲げるヴィジョンである「Pax Japonica(パックス・ジャポニカ)」の定義を、新たなエレメントの基、時宜に適した形で改定いたしました。

<Pax Japonica(パックス・ジャポニカ)の定義>

上述の背景の下、東京大学光吉研究室との共同研究に続き、社会貢献事業の一環として、この度慶應との関係性を作るべくIISIAでは計画が進んでいます。詳細は改めて、きちんと整理して皆さまにお伝えする予定ですので、今回は訪問のお話だけにいたしましょう。


浜松町、ビルの一角にて

さて、お邪魔したのは、浜松町にあるビルの一角。慶應メディアデザイン学科に所属しつつInterdisciplinary Research Group (IRG)で研究員として活動する、川口さんに案内してもらいました。「メディアデザイン」の名に相応しく、本や資料、工具、材料、機械が所狭し並ぶ場所で、研究が進んでいます。この学科の特色は、キャンパスの外側に実験/製作の場(今回のラボ)、そして実証/実装の場(ミュージアムやカフェなど)を設けている点です。学生はもちろん、企業からの研究員の姿もありました。


メディアデザイン、研究中

ざっくり言ってしまうと、「メディアデザイン」は情報や感情を誰かに伝える媒体を作ったり、その伝える方法自体を改善したり、といったプロセスを土台にしています。

例えば、紙カップの下に貼り付けた電極を通じて、触感の伝達ができる機械を紹介されました。触覚というと、ものの温度、テキスチャー(肌触り)、硬さや重さなどから得られる刺激の全般を指します。ここでは、片方の紙カップへの刺激(弾力のあるボールが入った、それがカップ内でごろごろ回ったなど)が、もう一方のカップに伝わります。こちらのカップには何も入っていないので、刺激されているカップの触感が遠隔で空のカップ伝いに感じられるという、普通ではありえない感覚を体験できました。

画像1:川口研究員(右)の持っている紙カップの振動が、櫻井(左)の紙カップに伝わる様子

日常生活では、視覚や聴覚といった(より直接的な)刺激が先行する人も多いと思いますが、こうして(より主観的な)触覚に注目してみると、いかにこの刺激が繊細で、かつ自分の身体に刺激を与える感覚なのか分かります。エンターテインメントの分野、特に映画やゲームのプレイ体験の向上に使えそうな感覚です。実際に、この触覚の伝達を感じつつ、川口研究員に映像を見せてもらいました。映像の中では、流れるような茶道の動作と共にお湯がお茶碗の中に注がれる音が聞こえ、日差しの中赤ちゃんが大人に抱っこされながら、肌を小さい指で押しています。こうした動作や音に合わせて自分の持っているカップを動かすと、なるほど視覚や聴覚に触覚が合わさっているような感じがする時もあるでしょう。

続いては、ロボットアームの操作体験です。皆さまは、医療用ロボットアームをご覧になったことはあるでしょうか。工場の作業用に使う、他の機械やアームと連動するタイプではなく、独立して操作できるアームです。物を上げたり下げたり、縦横に動かしたり、といった動作が滑らかにできます。しかもこのアーム、特筆すべきはその操作者が複数いても、ちゃんと動ける点にあります。

画像2:ロボットアームを操作し、積み上げられた赤いブロックを摘んで、横に積み直そうとしている弊研究所の岩崎

この機械を紹介してくれた研究員と、共同で操作をしてみました。アームの前にあるブロックを摘み、すぐ脇に積み上げていくというシンプルな作業ですが、ちょっとしたコツが要ります。相手と声を掛け合いながら、自分の指や腕を動かすタイミングを合わせるのです。笑ったりすると、その振動までアームに伝わってしまいますから慎重に、安定した動きができるように心がけます。結果はまずまずで、無事にブロックの積み直しができました。

次は一人で操作してみましょう、ということで、二人で操作していた時には50%ずつに分けていたアームの操作率を、一人だけの100%に設定します。最初の回で操作が上手いと褒められていた私はいい気持ちで、少々軽口も叩いたような覚えがあるのですが、今回はほんの数回目でブロックを倒すという失態に終わりました。岩崎も同じような結果に終わり、そんなことは最初からお見通しの様子で研究員が説明してくれました。なんでも、こうした作業は、二人で協力しながら操作したほうが成功しやすく、一人になると途端に動きが不安定になったり、たどたどしくなるのだとか。また、操作量の分け方も重要で、50%ずつに分ける時、70%30%と分ける時だと、また結果が違ってくるそうです。こうした知見をもとに、例えば職人技や、プロのスポーツ選手の技術を覚えさせたアームを、初心者の手助けとして使う可能性を、研究員は語ってくれました。


デザインの先へ

こうして、コミュニケーションや福祉、そして公共空間に役立てるデザインを考えるべく、日々実験を繰り返しながら知見を蓄積する場に行ってまいりました。「マイノリティーと呼ばれる人々も含め、我々にとって居心地の良い社会になっているのか」「コミュニケーションのあり方で、孤独感や孤立を防げないか」「伝統文化や技が途絶えてしまうのではないか」といった課題意識や疑問に、デザインの観点から取り組む。そんな人々に出会い、IISIAは何ができるのかを考えてまいります。

社会貢献事業担当 櫻井あゆ子 拝