中国に席巻される太陽光ビジネス ―我が国に対抗する術はあるのか(コーポレート・プランニング・グループの”社会貢献事業” ブログ(Vol. 2))

2024.03.05

2月28日(水)から3日間に渡り再生エネルギーに関する展示会が開催された。再生エネルギーに関する事業に取り組んでいる企業や団体の展示会に行ってきて初めに感じたのは、我が国が危ない、ということだった。今回は例として太陽光発電ブースに入ってからの雰囲気をお伝えする。

●展示ブースの様子から見える太陽光発電の現状

270m×90mの大きな展示スペースに対して、中国企業が展示ブース全体の半分程を占めていた。日本企業で出展しているのは、太陽光電池自体ではなく、パネルを載せる土台や駐車場、住宅設備を販売している企業が多かった。これを考慮すると、我が国の太陽光発電技術はかなり後れを取っていると感じた。

(SMART ENERGY WEEKにて筆者撮影)

●勢いが止まらない中国の太陽光発電

中国国内では電力需要の高まりに合わせて電力供給量も高まっている。中国勢の発電電力量としては、石炭火力が依然として圧倒的に多いものの、太陽光発電は国策として補助金が投じられたこともあり、近年電力量が伸びている。また、2023年12月にはNHKのニュースで、太陽光発電の主要部品に占める中国製品のシェアが80%を超えていることが報じられた(参照)。これには驚きを隠せないが、今回の展示会に出展している中国企業の勢いを見ると、我が国以外でも、安価を売りにして着実に太陽光業界のシェアを世界中で増やしていることは安易に想像できる。

<地域別・太陽電池生産能力の推移>

(出典:日経クロステック

●太陽光発電における我が国の技術とその喧伝を行う政府の意図

今回の展示会では連日多数の講演会も実施されており、その中でも太陽光発電についての講演には複数出席した。これらの講演を聴講することで、初めに太陽光発電ブースに足を踏み入れた時に感じた、我が国がこの業界から置き去りにされる恐怖は少し和らいだ。しかし、講演内容を振り返ると案の定、政府の施策や今後期待する展望について疑問が湧いてきてしまった。

複数の省庁や民間企業の登壇者から、我が国が先導して研究を進めているペロブスカイト太陽電池の社会実装を急いでいるという言葉が何度も聞かれた。また、この太陽電池の素材としてヨウ素を用いるのだが、我が国が世界第二位のヨウ素産出国であることを誇張していた。民間企業としては、原料を他国に販売することも見込んで、この太陽電池を国内のみならず、世界に拡散させていきたい様子さえ伺えた。これを聞くと、まだ製品化していないとしても、展示ブースにはいずれかの企業や団体がこの技術について紹介しているだろうと思料し、講演聴講後に再度太陽光発電ブースを1時間程度回ったものの、一つも見当たらなかった。中国勢が多く出展することを念頭に、技術力がある企業や団体は本展示会に参加していない可能性が高いとも感じたが、そうだとしても本当にこの技術には将来性があるのだろうか。中国勢に技術を盗まれたとしても、原料を我が国から輸入する必要があることを考慮すると全く魅力的ではない。市場規模が小さく、ビジネスとしては発展性がないように見受けられる。さらに、中国勢が既に世界で市場を席巻しているのであるから、現状では発電効率に大した差が見られない新種の太陽電池を我が国から発信したとして、中国勢の廉価な太陽電池に対抗できないだろう。

ペロブスカイト太陽電池は、我が国政府が国内での太陽光ビジネスの競争活性化を促すための宣伝材料なのではないだろうか。既に中国製の太陽電池を設置している場所の場合は、新しい技術を搭載した新製品が発売されたとしても、その価格と発電効率が飛躍的に進歩していない限りは既存の電池が故障するまで買い替えは行わないのが一般的だろう。現時点では、太陽電池に関してまだ中国勢に追いつくことは不可能であり、再生エネルギー全体を見ることなくこの技術の製品化ばかりに注力してしまうと、政策は失敗に終わるのではないだろうか。

●我が国の向かうべき道

米国勢は3月3日(日)に公表した歳出法案にて米戦略石油備蓄(SPR)から放出される石油の中国への売却を禁止する措置を取っており、これによる中国勢の太陽光発電ビジネスは一層勢いを増すことになるだろう(参照)。

我が国では、二酸化炭素の排出量が圧倒的に少ない火力発電の建設や、水素発電、廃棄物処理に関してまだ注目されていない潜在性を秘めた技術に対する研究が盛んである。現状で他国が着目していない気候変動への対策として、我が国だけが持つ技術は太陽光発電以外にも多く存在する。太陽光発電ビジネスへ無理に参入を促すよりも、これらの技術の社会実装を応援することのほうが国の対策として経済効果をもたらすことになるだろう。

社会貢献事業担当 近藤由貴拝