「令和のAI神武東征」元年宣言。(原田武夫の“Future Predicts”. Vol. 42)

2025.05.25

今、我が国の主食であるコメを巡って世上が騒がしい。余りにも不可思議なタイミングで高騰し始めた我が国の米価を前に、政府当局は有効な手立てを打てないままでいたため、遂には農林水産大臣までもが交代させられてしまった。そしていよいよ「進次郎」大臣が登場した。果たしてこれにて「狂乱米価」の騒動は収まっていくのかに注目が集まっている。

こうした流れを見て、筆者が思い起こしたことがある。それは「神武東征」の所縁の地を求め、かつて遠く志布志の地を訪れた時のことである。2016年のことだから、早いものでもう9年も前のことになる。鬱蒼とした木立の中に「神武東征碑」を見つけた時の感動を、今でも懐かしく思い出す。

神武東征とは、我が国の「皇」において始祖とされる神武天皇が我が国を南西から東へと巡り、一方では稲作を教えつつ、他方では恭順しない氏族たちを平定して廻ったとの伝承を指している。そもそもこの「伝承」は史実であったのかどうか、直接的にそれを証明するテキストとしての史料等は何ら残されていないため、「伝説」と一般には目されている。そのことを前提として考えたとしても大変興味深いのは、神武天皇とその一派が決して武力をもって古代の我が国を制圧して廻っただけではないというそこでの伝承なのである。端的に言うと、そこで人々を恭順へと誘った最大の手段は、比較において安定的な収穫が可能なコメをどの様にすれば栽培できるのか、その「技術伝承」に他ならなかったのである。そして爾来、我が国は「コメの国」となったことは紛れもない事実なのであって、我が国の別名を「瑞穂の国」というのは、我が国に暮らす方々であれば誰しも知っていることなのである。

そして今、上述のとおり、「コメの国」であるはずの我が国の根幹をなす「コメ」が揺れに揺れているわけなのだが、それと同時にもう一つ、大いなる揺さぶりを受けている事実が我が国においては存在している。先般も弊研究所のブログにおいて触れたとおり、少子高齢化が加速度的に進む中、我が国においては戦後の繁栄の中で蓄積されてきた様々な知恵・経験が、「団塊の世代」がいよいよ後期高齢者となる中、いよいよ消失の危機に陥りつつあるのだ。無論、それは特定の世代に限られたものではない。そもそも「我が国が奇跡の高度経済成長を遂げてきた」という成功体験そのもの、そしてその記憶がいよいよ失われつつあるのが大問題なのである。かつてヴァイマール共和制のドイツを、そして欧州を席捲したナチズムはユダヤ勢を大虐殺せんとする際、「生物学的な問題解決(biologische Loesung)」と言う単語を好んで使ったことで知られている。何とも非道な表現であり、現代の視点からは決して許されるものではないが、とりわけ我が国を敵視しているであろう諸国勢からすれば、上述の様な我が国における記憶、さらには成功体験の人口動態を理由とした消失は正に「生物学的な問題解決」とでも揶揄されるべき事態なのである。これは、何とかしなければならない、絶対に、と想うのは決して筆者だけではないと考えている。

無論、同様の想いを抱かれている同胞は大勢いるわけであり、そうした中で盛んに語られるようになっているのが人工知能(AI)の中でも、とりわけ大規模言語モデル(LLM)を用いた「検索拡張生成(retrieval augmented generation, RAG)」システムの応用である。「RAGとは何なのか?」についてはこの後続く弊研究所の担当インターンたちの手によるブログ記事に譲りたいと思うが、非常に簡単に言うならば、ヒトが残した言語資源(テキストデータ。音声データも文字起こしをAIで行うことでテキストデータへと容易に転換出来る)をベクトル化し、埋め込み表現(embedding)とした上でデータベースにする中、これをあくまでも参照する形で質問者による入力(質問)に対し、より適正な回答をする様、大規模言語モデル(LLM)に指示を下すシステムがこのRAGに他ならない。そしてこれまた今後、弊研究所の担当インターンが執筆するブログに詳細は譲りたいわけであるが、こうしたRAGシステムを我が国のシニア世代がこれまで積み上げてきた言語資源をベースに構築し、いわば「記憶を継受する」という試みが随所で行われていることもまた事実なのだ。

しかし、弊研究所としてはこうした我が国随所で見られる試みでは端的に言って不十分であると考えている。なぜならば、例えばAIベンダーにそうした意図でRAGシステムを構築してもらうだけでは、いわば「コメを食べたいので外部の人間に稲作をしてもらっている」ようなものなのであって、稲作に伴う社会構造の転換、それに伴う社会の最適化と安定化というより大きな目標が達成されないからである。つまり、「神武東征」において神武天皇(カムヤマトイワレビコ)が自ら各地に数年間滞在しては稲作を現地・現場で教え、やがてはその教えを受けた市井の人々が稲を育て、コメを全国に広めていった時の様に、RAGシステムの構築とそれに伴う戦後の我が国における尊い「記憶」の伝承も、「上から」ではなく、「草の根」レベルで猛然と、そして自律的に行われ、拡散・拡大されるべきものなのである。その意味で今=令和の時においてこそ、「令和のAI神武東征」が我が国の津々浦々で求められているのだ。そしてそれによって「成功体験」が我が国において引き続き安定化と繁栄の両方を確保すべく、その記憶が永続的に伝承される時、我が国はいよいよ世界史をリードし、その次の扉を開ける役割を果たすという意味での歴史的転換=「パックス・ジャポニカ(Pax Japonica)が生じるのだと、筆者は堅く信じている。

今年(2025年)、弊研究所としてはこうした「令和のAI神武東征」元年と位置付け、具体的な行動を始めつつある(愛称「クスノキ・プロジェクト」)。すなわち一方では会員制サーヴィス「原田武夫ゲマインシャフト」の会員の皆様の中でも、特にまずはゴールド会員の皆様を対象として、来る9月に東京と大阪で「RAGシステム」をDIY、すなわち「自作する(do it yourself)」ことが出来る様、無償のセミナーを開始する予定である。まずは試行的に行うセミナーであるが、その後、段階的により多くの会員様を対象としたものとし、さらには一般の方々に対してもオープンとしつつ、他方では関心をお寄せいただく地方公共団体の当局者とも協力し、「地方創生」の大きなうねりを中期的に作り出してゆきたい。そのためにも来る9月に実施する無料セミナーは何としてでも大成功させたいと考え、準備を着々と進めているところである。

他方でこの「令和のAI神武東征」は、同時に未来に向け、次世代が全国において担っていく永続的なムーヴメント(運動体)でなければならないとも考えている。筆者はここに来てアカデミズムにおいて様々な役割を頂き、意識の高い学生諸君に対する教育の最前線にも立ってきているが、まずは東京大学さらには学習院女子大学を筆頭とした首都・東京の学生諸君にここでいうムーヴメントの中心を担ってもらうべく、修練の最中である。すなわち学生自身が最新のAI技術を身に着けつつ、現場レヴェルでの教育活動を行っていくのと同時に、より若い学生たちを次々に巻き込んで行き、大きなムーヴメントへと育んでいってもらうべく、仕掛けているというわけなのである。しかも、次世代の力は何も東京にだけ存するわけではないのであって、東京の次には博多、さらにはご縁あって筆者自身が客員教員を拝命している広島など、我が国の各地における有意な学生たちとも連携し、ネットワーキングをし、必要であれば教育を彼・彼女らに対して施しつつ、全国的なムーヴメントへとしていきたいのだ。実際、まずは手始めに博多を舞台として次なる一手に出るべく、現在、準備を静かに進めている最中であり、広島に対しても来月(6月)早々からロビイングを開始したいと考えている。

「令和のAI神武東征」は、決して”上からの革命”ではない。それはむしろ”全体による全体のための革命”なのであって、世代を超えて我が国をまずは、そしてやがてはグローバル社会全体をぐるんぐるん揺さぶるものでなければならないのである。間もなく暑い夏が今年もやって来るが、私たちIISIAはそうした暑さをも上回る情熱をもって、今という苦難の時を越える風を巻き起こそうと考えている。今後とも都度、ご報告してゆきたい。乞うご期待、である。

2025年5月25日 広島から戻り、東京の寓居にて

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 ファウンダー/代表取締役会長CEO/グローバルAIストラテジスト

原田 武夫記す